ラインの乙女 5





 煎じ薬が効いてきた頃合を見計らい、カッツェンエルンボーゲン伯はおもむろにリーンハルトの足首の縄を解いた。
 うつ伏せにされると同時、伯の膝で脚を割り開かれる。
「伯、……いつか、いつか後悔することになるぞ」
 まるで呪詛のようなリーンハルトの言葉、けれど伯は動じなかった。
「私は後悔などしない」
 脚間の屹立に伯の手が絡みつく。親指と人差し指で作られた輪で屹立を擦られると、悲しい男の性(さが)か、すぐに勃(た)ちあがってしまう。先端から零れた蜜がとろりと濃く粘った。
「――は?」
 気付くと、伯が何事かを尋ねかけていた。
「女は? どうなのだ」
「むろん経験はある」
 口にした途端、思い出が溢れた。
 あれはリーンハルトと皇太子が揃って刀礼、騎士叙任を果たした日であった。
 リーンハルトと皇太子は連れ立って城下の娼館を訪れた。皇太子は乗り気で、リーンハルトはやや及び腰だった。
 首尾を果たした翌日、皇太子はリーンハルトに執拗に絡んできた。館で一番人気の娼妓(しょうぎ)を引き当てたのが、リーンハルトだったというのがその理由。
 リーンハルトはそれを聞いて、複雑な思いを抱いたのだった……。
「良かったか?」
「あんな…ッ……ものだろう………」
 屹立の先端に指を挿し込まれ、抉(くじ)られた。薬に冒された身体でも、痛みは感じた。
「…や……止め…、痛…ッ」
 懸命に首を振り、苦痛を訴える。
「なるほど、こちらも手付かずか」
 カッツェンエルンボーゲン伯は立ち上がり、長持ちの中から油壷を取り出した。
 壷に指を挿し入れ、たっぷりと油を塗(まぶ)したそれで後孔に触れてくる。ぬめった指で襞の一つ一つを丹念に伸ばされるように触れられて、リーンハルトはぞくりと身体を震わせた。
「皇子(おうじ)もどうかしているな。この身体を前にして手を出さぬとは」
「どうかしているのは…、…っ…貴様の方だ……」
 敬愛する皇太子を辱められたような気がして、リーンハルトは言った。けれどカッツェンエルンボーゲン伯は薄い唇を歪めて笑うばかりだった。
「初めてなら痛いかもしれぬ。力を抜くとよい」
 伯が下衣を寛げると、猛るそれが露わになった。未だ自分の置かれた状況を飲み込めていなかったリーンハルトは伯に問いた。
「本気、なのか……?」
「何を今さら」
 伯は天を突く屹立に自ら油を塗すと、リーンハルトの後孔に押し当てた。うつ伏せにさせたリーンハルトの腰を掴み、まずは張り出したその部分だけを含ませた。
「…む…無理、…だ…ッ…」
 これ以上入るはずがない。
 リーンハルトは薬で痺れきったその身体で、それでも懸命にずり上がって、肉の刀から逃れようとした。
 しかし伯はリーンハルトの腰を強く抱き。
「覚えておくが良い。これが破瓜の痛みというものだ」
「――ぃ…ッ!」
 熱い屹立が頑な蕾をこじ開け、強引に挿し込まれた。
 それは内臓が口から飛び出すのではないかと思えるほどの衝撃だった。容赦なく付け根までねじ込まれ、否応なしに伯の下生えの感触を知る。
「きついな。成る程、混じり気なしの処女という訳か」
「あ…ッ……く、…動く……な!」
 伯が腰を動かす度、脳天まで響くような衝撃が走る。
 騎士であれば、肉体的な痛みには慣れていた。女子供のように泣き喚くような真似はしない。だが、鍛えようのない内臓を責められては堪らなかった。
「辛いか? だが、そのうち慣れて良くなろう」
 そう言うと、伯はゆっくりと律動を開始した。圧倒的な質量を持つそれで狭い内壁が押し拡げられる。
 腰を抱え上げ、より深い結合を強いながら、伯はリーンハルトの屹立を握った。付け根から前方にかけてを扱かれて、リーンハルトは悲鳴じみた声を上げた。
「……ッ……は……」
「どうだ?」
 世にも残酷な問いかけであった。悲鳴さえも相手を喜ばせるばかりと知り、リーンハルトはひたすらその痛みに耐えた。
「それとも、初めての相手はやはり皇子が良かったか」
 応えないリーンハルトに業を煮やしたか、伯は深く繋がったまま、リーンハルトの身体を返した。
 内臓が捻られ、リーンハルトの身体は若鮎のように跳ねた。伯はリーンハルトの脚を開かせると、結合部分を殊更に見せつけるようにした。
 限界まで拡げられた自分の後孔が伯の屹立を受け入れている。伯は腰を入れては引き、引いては入れを繰り返し、リーンハルトの内臓を掻き回した。
 悲鳴を押し殺そうと唇を噛む余り、唇の端が切れて血が流れ出した。
 伯は血に塗(まみ)れたリーンハルトの唇を、その家名の通りの猫じみた仕草で舌を伸ばして舐め取ると、身体を重ねてきた。後ろ手に縛られたままの手首に二人分の体重が掛かり、絨毯に擦れて痛む。
 深く、浅く、角度を変えて、伯はリーンハルトを突いてくる。
 耐え難い苦痛の中に、微かな快楽の萌芽のようなものがあり、それがリーンハルトを余計に怯えさせた。
 何がいけなかったのだろう。
 伯を浅ましきユダヤの黒猫と揶揄して怒らせたことか。或いはそれ以前、功を焦り単騎で敵陣に突入し、捕縛されたことか。
 なぜそんなにも功を焦ったのか。
 人形のように揺さぶられ、返され、突かれながら、リーンハルトは思った。
 どうしてそんなにも皇太子の側にいたかったのか。
「…っ…ぅ、……ああッ!」
 堪えようとしても堪えきれず、ついにリーンハルトの喉から喘ぎ声が迸った。
 その喘ぎに気を良くしたのか。伯は内壁の浅い部分で、抜き差しするように屹立を動かした。逞しい腹筋に自身を擦られて、痛みとないまぜになった快楽が生まれる。
 そうだ、伯の言う通り。

――私は皇子(おうじ)とこうして身体を繋げたかったのかもしれない。

 律動は徐々に激しいものとなり、もうこれ以上は耐えられないとリーンハルトが思った瞬間、動きが止まった。リーンハルトの奥深い場所で、熱い白濁が迸り、狭い内壁に染み込んでいく。
 リーンハルトは伯を睨みつけた。
 憎かった。
 自分を辱めたこの男が、自分自身知りたくなかったこの感情を、白日の元に晒け出したこの男が――。
 血に塗(まみ)れた唇が再び呪詛のようなその言葉を紡ぎだす。
「…貴様……ッ、 …覚えていろ……」
 ご随意に。
 そう言って、カッツェンエルンボーゲン伯は高らかに笑った。





つづく
Novel