薔薇の冠 9 |
---|
胸の銀輪に細鎖が通され、それぞれ寝台の支柱の二つに繋がれていた。鎖は短く、頂きを千切られないようにする為には、動きが制限される。 両手首は一纏めにされて、天蓋から吊るされた鉄枷に繋がれていた。 その姿勢で、カッツェンエルンボーゲンはデュヴァリエ伯の膝の上で淫らに腰を振っていた。 律動から逃れようと身体を捻れば、未だ完成しきらず熱と痛みを持つ孔が鎖に引かれる。 言うなりになる他はなかった。 頂きは鎖の重みで下を向く。それが淫らだと言って指で無造作に弄られる度、痛みに身体が震える。中腰の姿勢が辛く、締め付けが弱くなる度、又弄られた。 「……っ……」 ――何が、教皇庁の異端審問官だ。 こんな拷問など生温い。アルジェリアンフック、鉄の処女、水責めの中世の拷問に比べれば、遥かに。生温い拷問に性的辱めを加えただけの内容だ。成程、普通の男なら、拷問よりもむしろこの辱めの方が応えるかもしれない。 だが、私には通じない。どれほどの辱めを受けようとも、耐えてみせる。 突然扉が開き、ラインスター公爵が部屋に入って来た。 「お愉しみであったかな」 公爵に続いて聴罪神父が現れた。聴罪神父が手の綱を引いて引き入れたのは、狼を思わせる姿が特徴的なエルザス犬であった。 「ブロンディでこざいます、公爵閣下。私が手ずから育てました」 「まだ子供ではないか」 「子供の方が良いのですよ、元気で」 聴罪神父は公爵にそう請け負った。 見られると興奮する性質なのかもしれない。カッツェンエルンボーゲンの内のデュヴァリエ伯がにわかに大きくなった。カッツェンエルンボーゲンの腰を掴み、一、二度荒々しく突き上げると、伯は達した。 飲み切れなかった精液が内腿を伝って滴り落ちる。唇を噛んでその感触に耐えていると、胸の銀輪から細鎖が外され、鉄枷から引き下ろされた。 カッツェンエルンボーゲンは寝台の上に崩れ落ちるようにして蹲った。 長時間中腰の姿勢を取らされ続けていたため、内腿の筋肉が引き攣れるように痛んだ。 腕を掴まれ、寝室中央の絨毯の上に強引に引き出される。 目の前に手紙が置かれた。その筆致に見覚えがあるような気がして瞳を細める。 見覚えがある気がしたのも道理、それはルドルフの筆跡を巧みに真似て書かれた手紙であった。 「見覚えがあるであろ、小僧の手紙だ」 読み進めていくうちに、顔色が変わっていくのが自分でも判った。 それは、新教徒の貴族たちへ謀反の加担を申請する手紙であった。これが然るべき場所に提出されれば、かつてルドルフが老ヴェルフ伯に書き送ったという手紙以上の反逆の動かぬ証拠となるだろう。 「貴殿はこの手紙を用いて、新教徒の大貴族たちを説き伏せようとした。そしてこの手紙は貴殿の屋敷を家宅捜索した折りに発見された。そうであろ」 それが筋書きか。 幾日経っても折れる様子を見せぬカッツェンエルンボーゲンに業を煮やしたのであろう。手紙を捏造するとは、手の込んだ陰謀だ。 「……私がそれに同意すると思うのなら、貴方は私を知らないのでしょう」 「であろな。貴殿が嬉々としてそれを認めると思うほど、我らは馬鹿ではない」 聴罪神父は犬を繋ぐ綱をラインスター公爵に手渡した。 「幾ら淫奔な貴殿とて、流石にこの経験はないであろうな。――犬は」 カッツェンエルンボーゲンは息を呑んだ。 「聖書で禁じられている行為でございましょう」 「ふふ、新教徒とて聖書は読めるか。だが忘れるな。貴殿は全きキリスト教徒ではないのだ」 聴罪神父は物慣れた様子で犬を背後から抱え込んだ。 逃れようと咄嗟に身体が動く。 扉に飛びついたが、錠前の下りた扉は開かない。髪を掴まれ、背後から蹴りつけられた。床に倒れるが、なおも後退って逃れようとする。そこに公爵の平手打ちが飛んだ。 したたかに打ち据えられて、カッツェンエルンボーゲンは床に崩れ落ちた。長い間一つ部屋に閉じ込められ、度重なる荒淫で弱りきったその身体では、もはや抵抗する術はなかった。 寝台の支柱に手首を括り付けられ、上体をベッドにうつ伏せにされる。腰だけを高く掲げる屈辱的な体勢を取らされた。 「試みに問おうか。認めるならば止めよう」 顎を掴まれ、見せ付けられる。 聴罪神父が抱え込むエルザス犬の脚間より覗く、内蔵を剥き出しにしたかのような赤黒く大きな、そして醜悪な形状を持つそれを。 カッツェンエルンボーゲンは小さく首を振った。 「成程、そなたはやはり若い犬が好きらしい」 「ブロンディ」 聴罪神父が促すと、好奇心旺盛な若い牡犬は歩み寄り、カッツェンエルンボーゲンの匂いを嗅いだ。肛孔に濡れた鼻面が押し当てられ、生理的な嫌悪に鳥肌立つ。 やがて犬は長い舌を伸ばして脚間を舐め始めた。がくり、とカッツェンエルンボーゲンの膝が落ちる。 「あ…っ」 人では決して有り得ぬ早さと熱心さで、会陰から窄まりに掛けてを舐められて、カッツェンエルンボーゲンはがくがくとその身を震わせた。熱く、唾液で濡れた舌が前後すると、気も狂わんばかりの快楽が訪れる。銀輪の嵌る脚間のそれが早くも勃ち上がり始めていた。 「デュヴァリエ殿が残された種のせいかもしれません。……興奮しているようです」 いつの間にか身支度を整えたデュヴァリエ伯が見物に加わっていた。三人もの男達の前で、けれど膝は、脚はだらしなくも開いてしまう。 「あ…っ、……う…」 「蕩けるような顔をしておられる」 口にデュヴァリエ伯の指が挿し込まれた。口内に溢れる唾液がデュヴァリエ伯の指を伝い、シーツに染みを作った。 「吸って。零れてしまう」 惑乱の中、カッツェンエルンボーゲンは伯の指ごと唾液を吸い、懸命に飲み下した。 「私の物を吸われているようだ」 先程達したばかりだというのに、デュヴァリエ伯の屹立はショースを盛り上げて、再び勃ち上がり始めていた。 「……あ……く……ッ!」 犬の長い舌が窄まりに挿し込まれ、カッツェンエルンボーゲンは瞳を見開いた。 「犬の体温は人より高い。堪らないでしょう」 聴罪神父は寝台の前で膝を付くと、カッツェンエルンボーゲンの顔を覗き込んだ。 「ただ一言、認めると仰って下されば良いのですよ。名門カッツェンエルンボーゲン伯爵家の当主が犬に犯されるなど、末代まで伝えられる恥辱になるだろうとはお思いになられませんか」 「どの道失う命だ。死んだ後に何と噂されようが構わない。私が死んだら、遺体はその犬に食わせると良い」 聴罪神父はラインスター公爵の方を向いた。 「公爵閣下は貴方様の命を救うと仰っておられます」 「何? …っ……」 屹立ごと舐められて完全に膝が崩れた。カッツェンエルンボーゲンの脚間のそれはより一層大きくなり、上を向いた。 「そして殿下は?」 聴罪神父は無言で首を振った。 もはや失ったも同然の命だと思っていた。いかに楽に死ねるか、拘束されてからというもの、ただそればかりを考えていた。 ――それほどまで欲しい証言か。それほどまでルドルフ王子を抹殺したいのか。 カッツェンエルンボーゲンはラインスター公爵の王冠への執念を改めて思い知らされた気がした。 犬の舌の動きが止まり、窄まりに熱い犬の屹立が押し付けられていた。カッツェンエルンボーゲンの上に乗ろうとして背中に前脚を掛けるが、上手く行かず爪で背を傷つけるばかり。 「女相手でなくても勃つのだな」 「ええ、仔犬の時より躾ければ。犬は生まれつき好色な生き物でございますので」 聴罪神父は犬をカッツェンエルンボーゲンから引き剥がすと、再び尋ねた。 「いかがなされますか、伯爵閣下」 カッツェンエルンボーゲンは応えず、観念したように瞳を閉ざした。 それが合図となった。 聴罪神父は犬を抱え上げ、カッツェンエルンボーゲンの背中に乗せてしまうと、犬の前脚を掴み、カッツェンエルンボーゲンの腰にしっかりと掛けさせた。 犬は交尾を求めて、前脚で抱えた腰を引き付けた。脚間に熱い犬の屹立が押し付けられる。闇雲に突かれるが、上手く挿入が果たせない。 聴罪神父は犬の屹立に手を添えて挿入を手伝った。大量に分泌される透明な先走りの液の力を借りて、グロテスクな形状を持つそれは窄まりに入り込んだ。 「あ…ッ……」 圧倒的な質量を持つそれが内壁に入り込み、カッツェンエルンボーゲンは喘いだ。挿入するなり、犬は激しく腰を振り始めた。疲れを知らぬかのような激しさで、初めからガンガンと突いてくる。 「大した見物だな、犬と人との交わりとは」 ラインスター公爵は豪奢な布張りの椅子に腰を掛けると、肘凭れに肘を置き、高みの見物を決め込んでいた。侍従のようにデュヴァリエ伯がその脇に付く。 「あっ、あっ、あっ……」 犬の巨大なそれで内壁を擦られ、カッツェンエルンボーゲンはもはや声を殺す事が出来なくなっていた。腰はとうに落ち、寝台の支柱に括りつけられた手首だけで体重を支えていた。犬が腰を振るたび、ベッドの支柱が揺れてギシギシと音を立てる。 「閣下、犬のペニスの根元には瘤があります。雌の中に入ると、この瘤が膨らんで蓋の役割を果たすのです。最大時のそれはペニスよりも大きくなります」 その存在には挿入の時点から気付いていた。敏感な入り口を擦りたてる瘤は徐々に大きくなり、腹部を圧迫し始める。 「……あ…ッ…」 瘤はもはやその形状が実感できるまでに硬く、大きくなっていた。犬は突然動きを止めた。 「う、あッ…ああっ…!」 その瞬間、溶岩のように熱く、どろりとした液体が体内に注がれた。注がれているのが自分でも判るほどの大量の精液であった。根元で膨らんだ瘤が蓋の役目をし、カッツェンエルンボーゲンはその全てを飲み込まなくてはならなかった。 熱い精液を性急に、大量に飲まされた腹部が灼けつくように痛む。 「もう出したか。流石に子犬は元気であるな」 「犬は――」 長い射精を終え、背中から下りるかと思った犬が再び腰を振り始める。カッツェンエルンボーゲンは絶望的に瞳を見開いた。 「人と違い、性交の合間にも精液を作り続けます。人と比べて量も多い。だからこそ雌犬は孕みやすいのですよ」 「孕むであろか、この者は猫だぞ」 聴罪神父の言葉通り、犬は腰を振りながら、断続的な射精を行っていた。腰を振る度に、ぴゅ、ぴゅと熱い精液が迸り、カッツェンエルンボーゲンの内に注がれる。 「っ……腹…が…ッ…」 内壁は限界を遥かに越えて引き伸ばされ、身体は根元の瘤によって、犬が腰を引くたびに身体ごと引かれ、ベッドの支柱が揺れる。内臓がひき抜かれるのでは……という恐怖に駆られた。 「あっ、あっ、あっ……」 律動に合わせて声が漏れる。それは恐怖と背中合わせの快楽であった。屹立と瘤、そして精液で一杯に満たされた内壁を容赦なく突かれる。これ以上はないと思えるほど大きくなった瘤が敏感な入り口を擦り、屹立が感じる部位を責めたてる。 「ああ、王宮でそなたが大好きな子犬に会った。あの子犬は、そなたと王との関係を知っていたぞ。そなたを帰せ帰せと、きゃんきゃんと大した噛みつきようだった」 ――知ってしまわれたのか。 どうせ知られてしまうのなら、せめて私の口から話したかった。 軽蔑しただろうか、嫌悪しただろうか。いやそれで私を思いきって下さるのならそれも良い。切り捨てられてでも、私は、貴方に生き延びて貰いたいのだから。 カッツェンエルンボーゲンの記憶の中のルドルフ王子はいつも憂い顔だった。初めて会った時、どこの貴族の私生児かと思ったものだ。 それ故に時折見せてくれる笑顔が、砂漠の中で見つけた宝石のように輝いて見えたのだ。 「まるで孕み女のようだな。ほら、腹があんなに……」 「っ……あっ、あっ……」 耳を塞ぎたくなるような嬌声が喉から迸る。脚間のそれは限界まで大きくなり、先走りの液を零していた。ラインスター公爵に指摘されるまでもなく判っていた。自分は、犬に犯されて快楽を得、犬の精液で腹を膨らませている。 ……殿下。 私はこんなに穢れてしまっているけれど、貴方を抱いているその時だけは自分が清い存在になれたような気がしたのです。貴方に求められる事が何よりも嬉しかった。だから……どうか――。 こんな私のことなど、どうか忘れて――。 突き上げられ、揺さぶられ、精液で一杯の内壁を掻き回される。喉を反らせ、白い背中をしならせて、カッツェンエルンボーゲンは達した。 「気を失ったようです」 どこか遠いところで、聴罪神父の声が聞こえた。 「代わって下さるのですか? ならばお願い致しましょう」 扉の外で人の声がしていた。一方はつとめて抑えた話し方をしているが、片一方は激昴しているようで、時折声が大きく高くなっていた。 「――やり過ぎだと仰るのですか。だとしたら閣下は真の拷問という物をご存知ないのです」 片方は聴罪神父、その神父を糾弾する相手は、驚いたことにデュヴァリエ伯であった。 「肉体を痛めつけるのではなく精神を壊すことが重要なのです。見ていて下さい。今にあの者は子猫のように懐いて参りましょう」 扉が開かれ、デュヴァリエ伯が部屋の中に入って来た。 「今宵は私が伯爵閣下のお世話を」 監禁の実態が外部に漏れることを恐れてか、ラインスター公爵は使用人を用いなかった。カッツェンエルンボーゲンの世話の一切はクロイツェル聴罪神父が行っていた。陵辱の後は常に清拭され、シーツは清潔な物に代えられた。三度の食事も入浴も滞りなく、けれどカッツェンエルンボーゲンはそれさえも聴罪神父の遠大な計画の一端である事を知っていた。 飴と鞭。手酷い陵辱の後で優しくされれば誰でも心が揺らぐ物。 衣服を身に付けることは辛うじて許されていたが、その両の手足は絹の布で寝台の支柱に縛り付けられていた。 デュヴァリエ伯は寝台に乗り上がると、カッツェンエルンボーゲンのシャツの釦を外し胸を露わにした。 酒精に浸した脱脂綿で頂きに通した孔を消毒する。傷跡は塞がりかけ孔の完成はもはや時間の問題だった。それでも銀輪を回され消毒されると、酒精が傷に染みた。唇を噛んで痛みに耐える。 銀輪と頂きの間に舌が這わされた。痛みを中和するように舐められ、口に含まれて吸われると喉が反った。 「っ……」 「声を抑える様が堪らない。けれどここにはラインスター公も、あの聴罪神父もおりません」 「貴殿は見られていないと興奮しない性質なのかと思っていた」 「そうですね、大抵の相手は」 「世話にかこつけて私を抱きに来られたか」 答えず、舌先で突付くようにして頂きに刺激を与えてくる。漁色家らしい手馴れた愛撫を受けて、どうしても息が乱れてしまう。 デュヴァリエ伯はカッツェンエルンボーゲンの手首を繋いでいた絹の布を外した。包み込むように抱き上げ、性急に唇を重ねて来る。 「腕が」 腕を取られ、デュヴァリエ伯の背中へと回された。 「腕が欲しかったのですよ、私の背中に回して下さる貴方のその腕が」 舌を絡める情熱的な口付けを受けて、カッツェンエルンボーゲンは戸惑った。けれどそれも一瞬の事、デュヴァリエ伯の熱に煽られた振りで、その口付けに応えた。 「あ……っ……」 ――取り込めるかもしれない、この男。 それは、絶望という闇に差した一筋の光明だった。 カッツェンエルンボーゲンは瞳を閉ざして、大使の舌を吸った。瞳に浮かんだその色を見られぬ用心の為に。 |
つづく |
Novel |